3 26, 2014

侮辱の連鎖

Room #4

Opinion

ブルース・トレンパーに聞く雪崩事故の被害者と社会

text by ロブ・ガフニー( sportgevity

スキーヤーやスノーボーダーが雪崩に巻き込まれて埋没あるいは死亡する事故が起きると、犠牲者や生存者を侮辱する言葉や辛辣な批判がたびたび横行する。オンラインフォーラムやソーシャルメディア、個人ブログでよく見られ、大抵の場合次のような意見に集約される。「(雪山で滑れば)雪崩にあって当然。アホか」。こうした反応は事故のプロセスや背景を明らかにする上で、さらには物事をオープンに議論する社会の発展の妨げとなる。当然ながら当事者は事故を語ることや事実をシェアすることに二の足を踏む。

ユタ州雪崩センターのスタッフはこうしたカルチャーを変えようと懸命に働いている。雪崩事故の被害者の声を拾うことは、同じ状況での事故の予防につながるからである。先日ユタ州アルタのグリズリー・ガウチで起きた雪崩事故(プロスキーヤーのエイミー・エンゲルブレットソンは埋没したものの無傷で生還)が良い例である。エイミーは自身に起きたことやグループが犯したミスを事故直後にブログで綴った。今回Sportgevityではブルース・トレンパー氏(『雪崩リスクマネジメント』の著者であり1986年からユタ州雪崩センターの所長を務める)にグリズリー・ガウチの事故や侮辱による負の連鎖を変える方法について考えを語ってもらった。

Sportgevity(以下S):先日のグリズリー・ガウチの雪崩事故では何か見えない力のようなものが働いていたとお考えですか?

ブルース・トレンパー(以下B):グリズリー・ガウチは魅力的ですが厄介な場所です。今回の事故は法律用語の「誘引的ニューサンス」(訳者注:ニューサンスとは間接的な他人の財産享有妨害や生活妨害を表す英米法の概念)の典型的な事例といえます。とても狭いガリーがあり、小さな雪崩でも深い埋没が避けられない地形の罠がひそんでいますが、人気のあるスポットです。駐車場から簡単にアクセスでき、ガリーの上部には小屋もあるからです。見た目からはあまり危険に感じられないのですね。実際今までも危ない目にあったという報告はありました。死人が出ていないのが不思議なくらいです。

アルタのスキー場からバックカントリーに出るマジックラインを一歩踏み越えた途端、そこは石器時代から変わらない場所です。ライオンやトラ、クマ、雪崩が獲物をじっと待ち構える場所なのですが、極めて安全に管理されているスキー場から抜け出てきた人にとって、簡単に頭を切り替えることは難しいといえます。ディズニーランドから一歩外に出ればそこは強盗もいる現実社会ですが、夢の世界の余韻はすぐには消えないものですよね。

S: グリズリー・ガウチ雪崩事故の被害者エイミー・エンゲルブレットソンは「 Bind Spot」というタイトルのコラムをブログに載せました。当日のリスク評価の際に見落としたいくつかの重要な点が語られています。雪崩のリスク評価に関して、今日のスキーヤーやスノーボーダーにとってブラインド・スポット(盲点)となる最も強力なものは何だとお考えですか?

B: ヒューマンファクターにはたくさんの種類がありますが、どれか一つでも人は簡単にバイアスがかかった状態になります。ヒューマンファクターが厄介なのは、誰でもその影響下にあるということです。雪崩のプロフェッショナルも同じです。私も毎日この強敵と戦っています。

グリズリー・ガウチの雪崩事故にみられるヒューマンファクターには、パウダーと青空がもたらす幸福感、親密感、仲間内のプレッシャー、コミュニケーション不全、確証バイアス、楽観バイアス、集団的な対抗意識などがありました。ヒューマンファクターが強力なのは広告業界を見れば分かるでしょう。広告に影響されまいと思っていても、完全に自由な判断をすることは無理からぬものがあります。

ヒューマンファクターと戦うための方法を私の著書『Avalanche Essentials』から引用しますと、チェックリスト、「ユリシーズの契約」(当日絶対に立ち入らない斜面を事前に協議する)、「事前検屍」(明日の新聞の見出しを想像する)、反対意見(常に反対意見を出すことでグループは起こりえるミスの原因を検討することができる)の4つがあります。これらを上手く活用することです。

S: 昨今アクションスポーツ界のアスリートはエンターテイナーの役割をいっそう担うようになっています。アスリートと観衆の関係性は雪崩リスクの要因になりうると思いますか?

B: 先日ワイアード・マガジンに興味深い記事が掲載されました。ソーシャルメディアの利用によってシカゴのサウスサイドを縄張りとするギャングの暴力行為が増加しているという内容です。ギャングたちは自分たちの暴力沙汰をFacebookやTwitter、Instagram、YouTubeに頻繁にアップしており、ある投稿が注目を集めると似たような暴力事件がよく起きるそうです。

それとギャングは銃を見せびらかすポーズをよくしますよね。スキーヤーもそれと似ていませんか。GoProが登場して以来、きわどいラインにも降雪直後つまり最も危険な状態の時でもシュプールがつくことが珍しくありません。

S: グリズリー・ガウチの事故はプロ同士の写真撮影の最中に起きました。雪崩リスクの評価にどういった影響があったと思います?

B: 車の助手席に乗っているとき、危険を感じたらドライバーにそのことを伝える権利や責任があると思います。妻は嫌な顔をするでしょうけど。グループのメンバーは誰でもグループの決定に責任を負っています。しかしながらリーダー以外の者が意見をいうことは難しいものです。場合によっては嫌味に聞こえることもあります。雪崩のプロフェッショナルたちはコースオープンの決定の話し合いなどでこの種の問題を毎日扱っています。ざっくばらんな仕事仲間の間であっても、率直な議論はとても難しいですね。雪崩事故を防ぐうえで、一番厄介な問題ではないでしょうか。

S: 雪崩事故がニュース番組で報じられると、被害者への暖かい言葉を聞く一方で、厳しい批判も耳にします。こうした容赦ない批判の影響をどうお考えですか?ユタ州雪崩センターがウェブで提供する活動に何か影響がありますか?

B: ユタ州雪崩センターでは雪崩事故を我々に語ってくれる方々に対して、彼らが下した意思決定を批判しないという厳しいポリシーを設けています。我々にとって、当事者の素性や事故に至った経緯は重要ではありません。雪崩の活動や積雪状態を知りたいだけです。事故を未然に防ぐうえで役に立つ情報だからです。プロスポーツの解説者のように後からあれこれ言うことはあまりにも非生産的だと思います。それに雪崩のプロフェッショナルのほとんどは雪崩とニアミスしたり事故を経験したことがあります。プロといえども人間です。ミスをしない人間などいません。

雪や天候などつかみどころのないものを扱うとき、不確実性は常に存在します。また我々人間ができるリスク軽減対策には限度があります。私のお気に入りの漫画にこんなシーンがあります。迷路の中をさまようネズミをもう一匹のネズミが天上から眺めて叫ぶのです。「バーカ!」と。

S: グリズリー・ガウチの事故の関係者とりわけ被害者のエイミーさんとはどのような会話をしましたか?

B: 事故の関係者の氏名を公表しないというユタ州雪崩センターの厳重な規則のもとで、事故の全容を知るためにエイミーさんと救助にたずさわった方々に話を聞きました。YouTubeにアップされた動画はバイラル化したので、世界中のメディアから被害者と救助者の氏名や連絡先の問い合わせの電話が何十本とかかってきました。当然いつものようお断りしました。メディアのリクエストは事故の当事者たちに伝えます。メディアと話すか否かは彼らの自由ですから。インタビューに際しては、審判役になることはありません。率直に話してもらえるように心がけています。我々スタッフは同じ立場になったことがあり、その気持ちがよく分かるからです。

S: グリズリー・ガウチから私たちが学べることは他にどんなことがありますか?

B: 教訓となるような素晴らしいものがすでに公表されていますね。ユタ州雪崩センターではショートビデオを製作しウェブでリリースする予定です。救助者やグループのメンバーに当日の出来事を語ってもらいます。非難めいたものはいっさい入れません。どんな雪崩事故にも見られる要因が全て揃っていながらハッピーエンディングで幕を閉じるのですから、とっても良い物語になると思いますよ。

TEXT BY ロブ・ガフニー( Sportgevity
TRANSLATION BY NAOYUKI INABA/WHITE ROOM

Making our sports lifelong passions.


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Author: Naoyuki Inaba
URL: http://skibum.jp/whiteroom/articles/04-opinion
Tags: #Opinion #Interview #04 #Human-Factor

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