11 11, 2013

Brain Floss

Room #2

A guide to the Volant Spatula

By シェーン・マッコンキー

[編集者注:本記事は、2002年12月に発行されたヴォラント・スパチュラのユーザーガイド「Brain Floss - A guide to the Volant Spatula」の翻訳です。リバースサイドカットとリバースキャンバーという独特の形状をもつスパチュラの特徴や乗り方を、開発者でもある故シェーン・マッコンキー自らが解説したものです]

重要!スパチュラを手に入れたら滑りに行く前に、まず本ガイドを絶対に読むこと。

スパチュラに乗った後でも読み返せるように保管すること。スパチュラに関する全てが書かれている。後から理解するうえでも役に立つはずだ。

まずはスパチュラ購入おめでとう!ファットスキーの発明以降、パウダースキーの歴史の中で最も革新的なスキーを手にしたことになる。スパチュラはパウダー滑走に対する既成概念を覆すだろう。もっと楽に滑れるだけじゃない。未知の体験がこの先に待っているのだ。

本ガイドでは、スパチュラの独特の形状の理由、滑り方などスパチュラ乗りに必要となる基本的な考え方を伝授する。

まず最初に、これまでのスキーの常識を虚心坦懐に地中深く埋めてしまおう。倉庫の奥に眠るカービングスキーと一緒に投げ捨ててもいい。それくらいしないと、次の新しいアイディアを素直に飲み込めないだろ?

1.サイドカットはパウダーで効果を発揮しない。
2.キャンバーはパウダーで効果を発揮しない。
3.カービングはパウダーで必要ない。

単純にこう考えてもいい。新雪でもっと自分のパフォーマンスを高めたいとする。硬く圧雪されたスロープ向きのスキーを使いたいと思うだろうか。

スパチュラの滑り方

見ての通りスパチュラは、独特で奇異ともいえる形状をしている。スパチュラを使いこなすには、これまでのスキー技術を少し変えることが重要になる。心配ご無用!簡単なテクニックばかりだ。多くの人はスパチュラの革新的なシェイプに不安を覚え、エキスパート専用だと思うかもしれない。それは間違っている!パウダー経験者のビキナーでさえスパチュラは、パウダー滑走をずっと簡単なものにしてくれる。ここで説明するコンセプトにしても、ビギナーの方が固定観念に囚われたエキスパートよりスムーズに理解できるだろう。エキスパートは頭を柔らかくして、全く異なるコンセプトを受け入れる必要がある。それが無理なら、脳みそのヒダをフロス(歯間ブラシ)で掃除するしかないな!

両足を使って滑ろう!
谷足以上に両足を意識して荷重すること。新雪で浮きやすく、機敏なスライドターンが容易になる。ノーマルスキーでも有効な技術だが、スパチュラでは特に効果がある。サンクラストやウィンドエフェクトの斜面で最も実感できる。実際にスパチュラに乗ってみればびっくりするだろう。普通こうしたコンディションでは、ゆっくり滑るしかなかったり、スキーのトップが引っかからないように気を使わなきゃいけない。そんな注意はもう必要ない。両足荷重でぶっ飛ばそう!

可能性の扉を開けよう!
スパチュラ乗りにとって、パウダースキーの体験は劇的に変化する。ハイスピードでの操作性がずっと簡単になる。スピードを抑えて丁寧に新雪を滑るタイプのスキーヤーは、もっとスピードをつけて滑ってみてほしい。心をオープンにして、思い切って滑ろう!もちろんゆっくりパウダーを滑ることだってできる。ただ一度でもスパチュラのハイスピード感覚にはまったら、もう二度とちんたら滑っちゃいられない。

カービングよりもスライドしよう!
信じようと信じまいと、パウダーではぜひトライしてみてほしい。スパチュラを乗りこなすうえで、スライディングは最も難しい技術だが、コツはすぐにつかめる。スライドターンなんて習ったことがないという人でも、みんなをあっと言わせる滑りができるようになる。とにかくスパチュラに乗れば、自然と身につくだろう。締まった雪質になれば、ぐっとスライドさせやすくなる。スライドターンは操作性とスピードコントロールを大幅に向上させる。新雪でスパチュラの動きに慣れたら、両足荷重でフォールラインを斜めに横切るように板をスライドまたは横滑りさせてみよう。カービングターンのようにエッジを効かせないこと。フォールラインにダイレクトに向うスライドターンは直ぐにはできない。まずは斜滑降からのスライドで始めてみよう。

スキー仲間とスキーを交換して一本滑ってみよう
旧板の滑走感覚と比較して気づくこともある。二度と交換はゴメンと思うだろう。そしてスパチュラがずっと好きになるはずだ。誓ってもいい!

浮上とスライディング

次に、スパチュラの効果をもっと実感するために、2つの重要なコンセプト、浮力とスライディングについて理解を深めよう。パワーや加圧、カービングが必要となるところでは、浮力やスライディングはほとんど反対の理論として問題外に扱われるかもしれない。当然柔らかい雪と硬い雪では滑り方は全く違ってくる。カービングではなくてスライディングこそ最善策という考え方は、多くのスキーヤーにとって簡単に理解できないコンセプトだが、柔軟に考えてほしい。

センター幅の広いスキーは狭いものよりも浮きやすい。サイドカットがスキーを潜らせ、カービングさせる力が働く場面において、リバースサイドカットのスキーはスライドさせやすい。逆キャンバーのリバースサイドカットのスキーは、トップとテールがスキーセンター付近から持ち上がっている。つまりトップとテールのエッジは雪面から離れ、センター付近に接雪点がある。したがってスライドターンの始動にスキーを斜めにするとき、トップとテールはあまり雪面に触れず、スライドを妨げない。逆エッジも減らし、転倒しにくくなる。またスパチュラはツインチップになっており、スライドの始動性が大幅に向上している。エキスパートなら後ろ向きで滑ったりランディングできる。パウダーで後ろ向きに滑ることも、他のツインチップのパウダースキーより驚くほど簡単だ。

なぜスノーボーダーはパウダーでスピードを簡単に操れるのか?スキーヤーが苦労する深雪の中で、なぜスノーボーダーは簡単にターンができて、高速で滑れるのか?なぜスノーボーダーはスキーヤーよりも少ないエネルギーでパウダーを滑れるのか?単純に浮力の問題だ。スノーボーダーの体はつねに雪面から出ている。スキーヤーはたいてい雪面に潜っている。スパチュラはスノーボードの浮力と手軽さという利点をスキーヤーに授ける。さらに、スノーボードに負けないという充足感に加え、スキーならでは快適さと機動力も手に入るんだ。

リバースサイドカット

ノーマルスキーではサイドカットはターンをより簡単なものにする。エッジにのって圧をかければ、カーブを描いてくれる。近年の大きなサイドカットのスキー登場によって、誰でも容易にターンができるようになった。サイドカットはスキーヤーの味方だ。ハードバーンでは!

パウダーやソフトスノーでは、サイドカットは2つの異なる悪影響を生む:

  1. プールカバー:スキーヤーの体重がダイレクトにスキーの一番幅の狭い部分(スキーセンター)に集中することで、足元が雪中に沈む現象。プールを覆うカバーの上を走って横切るとき、足元だけが沈む現象と似ていることからこの名をつけた。”プールカバー”効果によって、スキーのトップとテールは浮く方向に働くが、体重のかかるセンターは雪中に沈み、スピードは沼地の中を進むようにのろくなる。ターンのたびに”プールカバー”効果が働き、新雪の中での上下動にスキーヤーは多くのエネルギーを消費することになる。

    沈没/カービング=有害 浮揚/スライディング=有効

  2. おんぼろ船:スキーが著しく不安定になり、コントロール性が大きく低下する現象。新雪だけでなく、サンクラストやウィンドエフェクトの斜面でもときどき起きる。ターン始動時に谷足のスキーが引っかかる感じで、雪面上に十分に上がってこない。スキーの左右のトップが交差したり、谷足のスキーが山足側の下に潜れば転倒は避けられない。ハイスピード時では、トップを雪面に出そうと上げる間、スキーがコントロール不能に進むこともある。これまで”おんぼろ船”効果の解決策は、ワイドスタンスをキープしたりスピードを落とす以外になかった。

嬉しいことに、今ではスパチュラで”おんぼろ船”や”プールカバー”効果に対処できる。スパチュラのリバースサイドカットによりスキーは雪面上に浮き、ターンの導入が容易になり、様々な困難な状況をもっと簡単に体力的にも楽に切り抜けてくれる。スパチュラでは”おんぼろ船”効果にほとんどあるいは全く気にならない。様々な雪質をハイスピードでもっと楽な姿勢で、滑りそのものを楽しめるんだ。

スパチュラを履くの足元の重量感は、同等の表面積をもつ他のスキーよりもずっと軽く感じると思う。リフト乗車中、左右に板を振ってみてほしい。リバースサイドカットによる効果でスウィングウェイトの軽さに気がつくだろう。サイドカット付きのノーマルスキーは、トップとテールの面積が相対的に大きく、重量分配も偏っている。正反対にスパチュラは、スキーセンターの方が相対的に面積は大きい。両足直下にダイレクトに重量がかかるため、そのままでは重く感じるかもしれない。だが実際の滑ると、想像以上に軽い操作感を感じるはずだ。

リバースキャンバー

ノーマルスキーのキャンバーは、加重によるパワーをトップとテールに伝える。スキーは安定感と強度を増し、ターン始動の手助けとなる。またターン全体を力強いものにする。キャンバーはスキーヤーの味方だ。ハードバーンでは!

新雪では、キャンバーは次の悪影響を生む:

  1. 沈降鋤:トップとテールが絶えず雪中に沈む動き。スキーヤーが働きかける圧の大きさやスキーのフレックスの硬さに関係なく、トップはスキーセンターよりも低い位置へと常に行こうとする。この動きに逆らうために過度の加重と抜重あるいは後傾姿勢が生じ、ポジションは不安定になる。”沈降鋤”効果を低減するには、トップを上方向に働かせることがポイントとなる。

  2. フランツ:スキーのターンはカービングが全てではない。一方、スキーはスライディングに適したように作られてはいない。抜重の間、トップとテールは常にスキーセンターよりも低い位置にあり、スライドを妨げる働きをする。無理にでもスキーをズラすと、突飛な挙動が生じて外側のエッジが雪をかんでしまうことがある。

スパチュラのリバースキャンバーは、スキーヤーの体重によって”沈降鋤”が働く状態を予防する(体重が軽いとリバースキャンバーの恩恵は得にくくなる)。ノーマルスキーでは後傾姿勢に頼らざるを得なかったような新雪コンディションでも、スパチュラなら後傾の必要性ははぼなくなる。自然なポジションでのスキー操作を可能にし、より少ない体力でもっと攻撃的に山を滑ることができるんだ。

パウダーで”フランツ”効果を減少できれば、全く新しい世界がやってくる。ターンを仕上げる時に少し横にスライドさせてみよう。両足荷重の基本を忘れずに。次はターン全体で長いスライドをさせてみる。通常のパウダー滑走の技術では、一つのターンをきっちり仕上げて次のターンに入る。これまでスライドに適したスキーがなかったせいもある。それに同一性、連続性をもったターンが伝統的に良いスタイルと考えられてきた。今ではカービング以外にもスライド、斜滑降、横滑り、(エキスパートなら)アイスホッケー流の制動技術がオプションとして使える。自由度が低くい伝統的なスタイルに囚われることなく、多くのクリエイティブな方法でスロープに向き合える時代がきているのだ。

スパチュラでハードバーンを滑る方法

スパチュラはオールラウンドなスキーではない。あらゆる種類の積雪コンディションで満足できるスキーだと欺くつもりはない(他のスキーメーカーはそうした宣伝文句を連発しているが)。スパチュラはソフトスノー向きに作られている。パウダー、サンクラスト、ウィンドエフェクト、深雪、薄い新雪、軽い雪、重い雪といった雪で効果を発揮する。アイスバーンやハードスノーを重要視したデザインではない。もっとも、パウダーデイでも硬い雪に出会うことはよくある。リフト乗り場に通じる圧雪コース、風の通り道、斜面脇のモーグルバーンなどである。安心してほしい。スパチュラはこうしたコンディションでも容易に扱える。相応の滑り方さえすれば。

そう言うと、必ずというほど質問される。「じゃあ、どれくらい圧雪バーンで使いものになるんだ?」これには次のアナロジーで答えることにしている。GSスキーでパウダーを滑るくらいには使える、と。滑ることはできるが、特別すごいわけではない。とはいえ、スパチュラでパウダーを滑る経験から得られる充足感と快楽は、ハードスノーでのパフォーマンス不足の問題をなきものにする、と自信をもって言っておく。

  1. 両足加重が基本
  2. スライディングでターン始動すること

次の一連の動きを頭のなかで描いてほしい。サイドカットを使ってターンを始めるとき、エッジに体重をのせていくと、スキーのトップが雪面を捉えていく。加重の加減によってスキーの回転弧の大きさは変化するにせよ、後はオートマチックにターンする。これはスパチュラには当てはまらない。スパチュラのシェイプはノーマルスキーとは逆である。ハードスノーでカービングに適したデザインではない。ソフトスノーでスライドやカービングに適したデザインである。圧雪を滑るときはカービングではなくスライド。鉄則として覚えるように。強引にカービングしようとしても、残念な結果が待っている。試してみればすぐ分かる。スパチュラに乗り、ノーマルスキーの要領でターンを始める。谷側のスキーに重心を移動しながらトップにプレッシャーを与え、続くターン中さらにプレッシャーをかける、、、谷回りの回転弧は正しい方向から外れ、上半身は山側へと倒れるだろう。一方、スライディングでターンを始めると、実際にはテールを使ったカービングでターンを終えることができる。スパチュラのテールが雪面を捉えると、ターン終盤でのカービングを可能にする。理不尽と思われることは承知だが、圧雪で数回試してみてほしい。すぐにコツがつかめるだろう。最後に箴言を授ける。スパチュラ乗りへの道はカービングではなく、スライドにあり。

Photo: Alfredo Martinez/Red Bull Content Pool

シェーン・マッコンキー
2009年3月26日、イタリアでのスキーベースジャンプ中の事故でこの世を去るまで、多くの人に影響を与え続け、それまでのスキーの世界を全く新しく作りかえた。その39年の足跡は今秋公開の『McConkey』で辿ることができる。

本記事はシェーン・マッコンキー基金理事シェリー・マッコンキーさんのご協力によって掲載が実現しました。ウェブサイトでは、シェーンのイラストが入ったTシャツやキャップなどの販売、寄付の受付けも行っています。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
WHITE ROOMのテキストは クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。

 

『McConkey』予告編



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Author: Naoyuki Inaba
URL: http://skibum.jp/whiteroom/articles/brain-floss
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