11 19, 2013

Intro

Room #2

FROM THE EDITOR

ロッカー全盛期の今、シェーンの思想が詰まったスパチュラの手引書「Brain Floss」を読み返す

by 稲葉直幸

2002年12月、「Brain Floss – A guide to the Volant Spatula」と題された奇妙なユーザーガイドが発行されました。ヴォラントのスパチュラの販売にあわせて作られたもので、リバースサイドカットとリバースキャンバーという独特の形状をもつスパチュラの特徴や乗り方、開発に至る物語が当の開発者でもあった故シェーン・マッコンキーによって書かれています。

乗り方を解説するユーザーガイド自体珍しいですが、5ページの文章量にも驚きます。まだロッカースキーのない時代です。当時のスキーヤーにスパチュラの利点と欠点を正しく伝え、スパチュラがもたらす新次元のパウダー滑走の魅力と可能性を説くには、必要最低限の分量だったのかもしれません。あるいは、長年あたためてきたアイディアがついに形になった喜びで、筆が進んだのかもしれません。どちらにせよ、スパチュラ体験をスキーヤーと分かち合える興奮の熱気が行間から伝わってきます。

そのスパチュラは今年で10周年をむかえました。この間スパチュラがスキーテクノロジーにおよぼした影響は計り知れません。その結果、滑走性や操作性に優れた多くのパウダースキーが生まれ、皮肉にもスパチュラは過去のスキーになりました。一方、「Brain Floss」で語られるシェーンの言葉は全く古びておらず、今日でも示唆に富んでいます。むしろロッカースキー全盛期の今こそ、読み返す価値は大きいと思います。「Brain Floss」の核心はスキー技術そのものより、スキー技術論にあるからです。

スパチュラを乗りこなすには、従来のスキー技術の常識をひっくり返す必要性を繰り返しシェーンは説いています。「柔らかい雪と硬い雪では技術は異なるー。」この大前提を元にスライドターンの重要性を強調するシェーンの技術論は、最新のファットスキーを履く者にとってもパウダーをより自在に、より楽しく滑るうえで大きなヒントになるでしょう。

とりわけマッコンキーターンとも呼ばれる高速スライドターンは、現在の”ビッグマウンテン”シーンではスタンダードな技術です。スライディングでありながら、大きく減速することなく次のターンに入れます。テクニカルなラインをスムーズに滑るためのスピードコントロール技術としても使われています。

あるいは、スパチュラの開発者ピーター・ターナーの最新作DPS スプーンが生む異次元のスライドはスラーブと呼ばれてますが、マッコンキーターンの進化系ともいえるでしょう。「Brain Floss」の根幹スライドターンは最新型のファットスキーを操るうえで、ますます重要になっています。

現在は、スパチュラよりもずっと扱いやすいリバースサイドカットや、リバースキャンバーから発展したロッカースキーのある時代です。言いかえるなら、スパチュラが根本から変えてしまった世界で私たちは滑っているのです。スパチュラ乗りのために書かれた奥義から学ぶことは今日でも大いにあるでしょう。

Remember! You’re a slider now not a carver! -Shane McConkey

「Brain Floss」はシェーン・マッコンキー基金理事シェリー・マッコンキーさんのご協力によって掲載が実現しました。ウェブサイトでは、シェーンのイラストが入ったTシャツやキャップなどの販売、寄付の受付けも行っています。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
WHITE ROOMのテキストは クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンスの下に提供されています。

 

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Author: Naoyuki Inaba
URL: http://skibum.jp/whiteroom/articles/intro-02
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